企画集会

ER シンポジウム

今年度のER シンポジウム(ER招待講演を希望するシンポジウム)では、以下のシンポジウムが採択されました。


『Toward an Old-Growth Concept for Semi-natural Ecosystems: Insights from Japanese Grasslands and Beyond』

【提案者】
黒川紘子(京都大学)

【ER招待講演者】

Joseph W. Veldman

Department of Ecology and Conservation Biology, Texas A&M University, USA

ジョセフ・W・ヴェルドマン博士:テキサスA&M大学生態学・保全生物学部の准教授。ホープ大学にて生物学学士号、フロリダ大学にて植物学博士号を取得。古草原の重要性や熱帯サバンナや森林の管理における火入れの役割を探求している。

講演タイトル「Why the natural versus anthropogenic dichotomy is unhelpful for old-growth grassland conservation」


ERシンポジウム招待講演者へは旅費の補助が行われるほか、大会後にシンポジウム内容に関連したレビュー論文もしくは特集論文などをEcological Research誌に投稿していただくことを予定しています。

公募セッション

今年度の公募セッション(発表分野の追加を伴うシンポジウム)では、以下の3つのテーマが採択されました。


【野生生物の持続可能な利用、取引、採取・捕獲 / Sustainable Use, Trade and Harvesting of Wildlife】

【提案者】
寺田佐恵子(大阪公立大学)、Hubert Cheung (立命館アジア太平洋大学)

【提案の狙い】
野生生物の過剰な捕獲・採取は、世界規模の生物多様性損失の主要因の一つであり、違法かつ持続不可能な野生生物取引は、地球上の多様な種の存続を脅かしている。野生生物を持続可能なレベルで捕獲・採取し、取引を行い、持続可能な利用を実現するためには、効果的な保全施策の展開が不可欠である。そのためには科学的な情報に基づく野生生物取引規制を制定し、その実効性を担保することが必要である。しかし、種の生息状況や個体群動態の評価が含む不確実性、野生生物取引のサプライチェーンの複雑さ、取引を駆動する多様な社会的・文化的背景、そしてグローバルに連鎖する取引の影響などが、野生生物取引に関する意思決定と法執行を極めて困難なものとしている。
この課題を克服するためには、学問分野を越えた協働と関連する異文化に対する理解の促進が不可欠である。「野生生物の持続可能な利用、取引、採取・捕獲」についての本シンポジウムは、国内外の野生生物の持続可能な利用に関する研究者を第73回生態学会大会に集め、学際的な議論の場を醸成することを目的としている。本シンポジウムを通じ、国内外の野生生物取引政策についての科学的な議論を深め、国際協力の強化や持続可能な解決策の発展に貢献することを目指す。
本シンポジウムでは、国内外の野生生物取引の専門家による招待講演を予定している。講演者らは、野生生物取引規制の発展を紹介し、野生生物の持続可能な利用について議論する。また、21世紀における順応的な野生生物取引管理を推進するための方法、多様な利害関係者をより効果的に巻き込むための革新的かつ実践的な手法について検討するとともに、より広範な地球環境ガバナンス分野からの野生生物取引管理に資する教訓を紹介する。本シンポジウムは、多様性を重視し、本分野における国内外の多様な知見の共有を促進するとともに、日本生態学会会員等による関連研究の更なる発展のきっかけとなることが期待される。


【延長された表現型 / Extended Phenotype】

【提案者】
佐藤拓哉 (京都大学)

【提案の狙い】
「延長された表現型」の分子機構・ゲノム進化・生態学的帰結
分子生物学と生態学が協働することで、生物学の未開拓領域に踏み込むことが期待されている。しかし、自然生態系における興味深い現象に対して、分子レベルの解析へと踏み出す動機や、他分野との共同研究の機会を見出しにくい学会員は、いまだ少なくない。本公募シンポジウムでは、寄生者や内部共生者による「延長された表現型」をテーマに掲げて、その分子機構・ゲノム進化・生態学的帰結の解明が、如何に専門分野の異なる研究者の共同によってなされ、異分野融合領域の形成へと結実するかを紹介する。
それにより、(1)学会員に今後の研究展開の足がかりとなる機会を提供すること、(2)生態学と他の生物学分野との融合をいかに推進し、学問領域として確立していくかを議論することを目的とする。


【人と自然 / Human Dimension in Ecology】

【提案者】
時任美乃理、徳地直子(京都大学)

【提案の狙い】
本セッションは、現代社会における「人と自然のつながりの現在地」を多角的に捉え直すことを目的とする。近年、気候変動やパンデミック、人口動態の変化を背景に、人々の価値観や暮らし方、自然との関わり方は大きく変化している。持続可能な資源の利用や効果的な保全実践を考える上では、自然を人間から切り離された保護の対象としてのみ捉えるのではなく、いかに関わり、どのように活かすのかを問う視座が重要である。
このとき鍵となるのが「ヒューマン・ディメンション」である。これは人間社会・行動・価値観・制度と生物学的システムの相互作用を明らかにし、互いに与え合う影響を検討する学際的領域であり、生物多様性への人間活動の影響、保全の社会的文脈、市民参加、倫理・政策的課題など幅広いテーマを含む。
本大会の公募セッションを通じ、森林資源を活かした地域づくり、市民科学、環境教育、文化的実践など多様な取り組み事例や研究成果を共有することで、多様化する自然観や価値観を理論的に捉え直し、生態学における新たな課題や応用可能性を検討する契機としたい。学際的な知の往還を通じて、人と自然の関係性を多面的に再考し、持続可能な社会に向けた生態学の新たな役割を探る場としたい。